初めて勤めた会社は、わたしを含めて、社員4人、パート2人、

そして社長の、7人のみの、ちいさな会社です。

事務職をやってみたくて、入りました。

面接では、作文を書かされました。

「お金」というテーマで、なんでも好きなこと書いていいから。

そう言われて、「終わったな」と思いました。

現代社会のことなんてよくわからないし、知ったかぶりを書いてもしょうがないと思ったので、

お金に対して自分が思うすべてを、素直に書きました。

社長は、まるで小学生が書いたようなその作文を見て、7人の面接者の中からわたしを選びました。

作文を見て決めたと言われた時、採用の基準が「知識」ではない事がわかりました。

初めて書類を作成した日、1枚の書類を作るのに、1時間かかりました。

これは、一般の会社では、100%ありえない事です。

社長が怒らなかったのには訳がありました。

私が入るまでに、3人の事務社員が3日~7日ほどで辞めていました。

本人がやりがいを持てる子であれば、知識がなくてもいい、というのが、

辛抱強く待ってくれていた理由にもなった、新しい採用基準。

「やれそう?」との質問に、「やらせてください」と答えると、

ハローワークで提示していた金額より高い給与で待遇してれました。

とにかく、なんでも任せる、が社長のやり方でした。

1日の仕事の段取りに指定はありません。

わたしの机は、毎朝社長や社員からの「これお願い」のメモで埋まっていて、

仕事がひと段落して帰るということもまずありませんでした。

家に帰っても、あれやこれや気になったりしていました。

独断で動いて、こっぴどく怒られたこともあります。

悔しくて、泣きながら帰ったこともありました。

それでも仕事が楽しかったのは、どこまでも信頼し、頼って任せてくれるからでした。

大切にされていることが、社長の態度や言葉の中で感じられたからでした。

失敗しても、今まで失敗なんかしてなかったかのように、いい意味で丸投げしてくれました。

辞めると決まってから、初めて経験する送別会。

「送別の贈り物は、自分で選んでいいよ」

お皿を手に取ったわたしを見て、

「割れちゃったら思い出がなくなるから、割れないものにしてよ(笑)」と社長。

ちいさな時計を買いました。

送別会当日、特別なサプライズがあったわけでもないのに、

その場の流れでみんなが歌を歌ってくれたとき、涙が止まりませんでした。

翌日のお昼時間は、なぜか社員全員が事務所でお昼。

誰も何も言わない。無言で食べていたけど、勤めてから初めて見るその光景に、

胸がいっぱいになりました。

終業時間ぴったりに、まっさきに社長が立ち上がり、わたしに向かって言いました。

「小川さん。今まで本当にありがとうございました。」

社長の目は、真っ赤でした。

社員ひとりひとりと、手が痛くなるほどの握手をしました。

次の仕事でも、その次の仕事でも、

ここで学んだ事をベースに仕事をしました。

わたしが大切にしている事は、この会社から生まれました。
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